128『足跡の消えた女』(あしあとのきえたおんな)

短編現代小説

小説『足跡の消えた女』について(概要)

初出 … 小説宝石1973年5月
出版 … 『死の彼方までも』光文社1973年12月
現行 … 『死の彼方までも』小学館文庫・小学館電子全集
嘘を重ねその嘘のゆえに行き場がなくなり失踪する女と、彼女が入院していると告げた多分存在しない病院を探し続ける夫婦。確かな足跡を残せない生と人間が「ぼろくそ」なものだからこそ信じようとする心の対照を描く。

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ID:7222【直筆下書き原稿(綾子)】三浦綾子『足跡の消えた女』全94枚

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作品本文の冒頭

 [鏡]
 Mデパート七階の「全国うまい物即売展」は、身動きのできないほど、人が混み合っていた。桜の造花が天井から下がった会場には、中年以上の男性が半数ほども占めていた。日曜で家族づれも多いのだろう。が、それにしても意外に多い男の数に、砂沢すなざわ道代みちよは何か哀感に似たものを感じた。世の男たちが、こうもうまいものに飢えているのかと思った。
 道代は夫の好きなからすみとかまぼこをようやくの思いで買って、入口に向かった。自然に人波に押されて入口まで来ると、入口には一段と人が混雑していた。シューマイの作り方を実演しているねじり鉢巻はちまきのしわがれ声の男のまわりに、客がむらがって動かないからだ。
 それを横目に見て、エレベーターに乗ったとき、一人の女性が道代の体を強引に押しつけるようにしてあとにつづいた。
(失礼な!)
 非難のまなざしを女に向けたとたん、道代は思わず、
「あら、津奈子つなこさんじゃないの」
 と声を上げた。高校時代親しかった岩坂津奈子の大きな目がニヤニヤと笑っていた。

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